「面白い」を言葉にし、価値として届ける——平成マンガを題材にした参加型講義
2026年7月31日、札幌大学にて、当社代表の楠野隼人が特別講師として、「面白いとは何か?――平成マンガは、私たちに何を育てたのか」をテーマに講義を行いました。
講義時間は13時から15時までの2時間。平成マンガを題材にした講義と、学生自身が考え、言葉にする3つのワークを実施しました。
今回の目的は、マンガの知識を増やすことや、作品の優劣を決めることではありません。
マンガを読んで心が動いた経験を振り返り、自分が何を「面白い」と感じるのか、その感覚の奥にどのような価値観があるのかを言葉にすること。そして、その価値観を仕事や生き方、これからの価値創造へつなげることを目指しました。
当社のブランド設計の思考法を、大学教育へ
本講義は、当社がブランド設計や事業プロデュースで培ってきた、
まだ言葉になっていない魅力を発見し、価値として言語化し、相手に届く形まで設計する
というプロセスを、学生向けの教育プログラムとして再構成したものです。
企業や地域の中にある魅力は、最初から明確な言葉になっているとは限りません。
関係者にとっては当たり前になっていること、感覚的には大切だとわかっていても説明できないこと、まだ価値として認識されていない経験の中に、その企業や地域ならではの強みが隠れています。
これは、一人ひとりの「好き」や「面白い」も同じです。
「なぜ好きなのか」「どこで心が動いたのか」を丁寧に掘り下げると、その人が大切にしている価値観が見えてきます。
今回は、学生にも身近な平成マンガを入り口に、自分の感覚を観察し、言葉にし、他者へ伝えられる価値へ変えていくプロセスを体験してもらいました。
なぜ今、「面白い」を考えるのか
仕事、学び、遊び、ニュース、マンガ、動画、ゲーム。
現在は、あらゆる情報やコンテンツが、スマートフォンの同じ画面に並ぶ時代です。
私たちが一日に触れる情報は増え続け、商品、サービス、授業、広告、企業からのメッセージまで、すべてが限られた時間と関心を奪い合っています。
この環境では、「正しい」「役に立つ」「必要である」というだけでは、見てもらい、選んでもらうことが難しくなりました。
だからこそ、人の感情を動かし、関心を生み、行動につなげる「面白い」という感覚を理解することは、エンターテインメントだけの話ではありません。
企画、商品開発、ブランドづくり、教育、組織づくり、地域文化など、あらゆる仕事に関係するテーマです。
講義では、「面白い」を次のように定義しました。
面白いとは、人の感情が動き、心が踊ること。
面白いとは、笑えることだけではありません。
驚く。熱くなる。悔しくなる。応援したくなる。誰かに話したくなる。読み終わった後も余韻が残る。
こうした感情の変化が、「面白い」の本質です。
自分の心がどこで動いたのかに気づき、その理由を言葉にすることが、新しい価値をつくる出発点になります。
マンガ評論ではなく、マンガから受け取った「価値観」を語る
楠野は、北海道・夕張で平成マンガを読みながら育ち、現在はブランド設計や事業プロデュースに携わっています。
振り返ると、勝負への向き合い方、プロとして働くこと、人が動く理由、弱さとの付き合い方、文化を次の世代へ渡すことなど、現在の仕事で使っている判断軸の多くがマンガから来ていました。
そのため今回の講義では、漫画評論家として作品を評価するのではなく、マンガから受け取った価値観を仕事に生かしてきた一人の実業家として、自身の経験を交えながらお話ししました。
平成マンガは、私たちに何を育てたのか
昭和のマンガが築いた物語表現や社会的な厚みを受け継ぎながら、マンガをより身近な日常へと広げた平成時代。
学校、部活動、競技、仕事、冒険、探偵など、親しみやすい入り口を持ちながら、その中で登場人物の葛藤、弱さ、矛盾、選択が深く描かれました。
入り口はシンプルでも、描かれる人間は深い。
平成マンガは、物語を楽しむだけでなく、人生や仕事について考えるための「問い」を、私たちに与えてくれました。
講義では、『ONE OUTS』『アイシールド21』『金色のガッシュ!!』『バクマン。』『シャーマンキング』『ヒカルの碁』などを例に、作品から受け取った価値観を五つの問いとして紹介しました。
プロとは何か
夢を仕事にするとは、好きなことだけを続けることではありません。
締切、仲間、競争、顧客、市場など、さまざまな制約の中で結果を出し、本物を生み出し続けることが求められます。
弱い側は、どう勝つのか
勝負は、単純な力比べだけではありません。
目的、ルール、相手の心理を理解し、正面から勝てないのであれば、自分たちが勝てる状況を設計する。これは、企業の戦略やブランドづくりにも通じる考え方です。
人は、何のために動くのか
人は、正しさだけでは動きません。
守りたい、強くなりたい、誰かの役に立ちたい、仲間のためにもう一度立ち上がりたい。人の心が動く背景には、それぞれの感情や物語があります。
文化は、どう受け継がれるのか
文化は、過去の形をそのまま保存するだけでは続きません。
次の世代が自分の物語として受け取り直し、新しい表現や関係をつくることで、文化は受け継がれていきます。
本物は、不遇でも残るのか
すぐに評価されなかったものや、一度は忘れられたものでも、本質的な価値を持つものは、誰かに発見され、語り継がれる可能性があります。
作品名や物語を覚えるだけではなく、「その作品から自分は何を受け取ったのか」を言葉にすることで、マンガは現在の自分につながる価値観になります。
学生自身が「面白い」を言葉にする3つのワーク
講義は、一方的に知識を伝える形式ではなく、学生自身が考え、言葉にし、他者と共有する参加型の構成としました。
ワーク1 人生に影響を与えたマンガ
自分の人生に影響を与えたマンガを一作品選び、その作品から何を受け取ったのかを書き出します。
勇気、勝負観、仕事観、仲間との関係、生き方など、作品が現在の自分に残した価値観を振り返りました。
ワーク2 ストーリー以外の「好き」を探す
絵、表情、セリフの間、コマ割り、ギャグのテンポ、表紙、空気感、読後の余韻。
普段は「なんとなく好き」と感じていることを観察し、具体的な言葉に変えていきました。
ワーク3 自分の「面白い」の原点を言葉にする
最後に、
あなたの「面白い」は、どこから来たのか?
という問いに向き合い、自分の「面白い」の原点を一言で表すことを、講義のゴールとしました。
自分が何を面白いと感じるのかを知ることは、自分が何を大切にしているのかを知ることでもあります。
紙からWEBへ——変わったのは、価値ではなく「入り口」
講義の後半では、マンガを読む環境が紙からWEBへ広がったことで、「面白い」が届く条件がどのように変わったのかを取り上げました。
紙のマンガには、雑誌を買う、単行本を探す、友人に借りる、家でじっくり読むといった体験があります。読む前から、一定の時間と期待を投資しています。
一方、WEBでは、一話目、タイトル、サムネイル、SNSなどを通して、数秒のうちに続きを読むかどうかが判断されます。
しかし、入り口が短くなったからといって、作品の深さが不要になったわけではありません。
入り口は速く、読後は深く。
大切なのは、紙とWEBのどちらが優れているかではなく、作品と読者が出会う状況に合わせて、入り口と体験の両方を設計することです。
面白さは、作品の中だけで決まるものではありません。
作品、読者、出会う状況。その三つが重なる場所で生まれます。
マンガとビジネスに共通する「届ける」という仕事
マンガとビジネスは、一見すると異なるものに見えます。しかし、根本では同じ問いを持っています。
誰に届けたいのか。
何を一言で伝えるのか。
どのような入り口なら、手に取ってもらえるのか。
何を相手の心に残したいのか。
良い作品も、良い商品やサービスも、ただ存在するだけでは届きません。
価値を発見し、言葉にし、相手との接点を設計し、実際に届ける必要があります。
講義では、面白さを価値へ変えるプロセスを、四つの言葉で整理しました。
感じる。名づける。設計する。届ける。
自分の心が動いた瞬間に気づく。
何が、なぜ面白かったのかを言葉にする。
誰に、どのような入り口から届けるのかを考える。
実際に届け、相手の反応から学び、さらに磨く。
これは、マンガだけでなく、ブランドづくり、商品開発、事業企画、広告、教育、組織づくり、地域文化など、さまざまな仕事に共通するプロセスです。
大学講義を通して実践した、当社の4つの力
今回の講義は、マンガについて話すだけのものではありません。
当社がブランド設計や事業プロデュースで大切にしている、次の四つの力を、大学教育の場で実践した取り組みです。
1.まだ言葉になっていない価値を発見する力
本人たちにとっては当たり前になっている経験や感覚から、その人や組織ならではの価値を見つけます。
2.感覚的な魅力を、伝わる言葉にする力
「なんとなく良い」「うまく説明できない」という感覚を整理し、他者と共有できるコンセプトや物語へ変えます。
3.参加者自身が答えを見つける場を設計する力
正解を一方的に教えるのではなく、問いと対話を通して、参加者自身が考え、発見し、言葉にできるプロセスを設計します。
4.価値が相手に届く入り口を設計する力
誰に、何を、どのような順番と表現で届けるのかを整理し、価値が正しく伝わる接点をつくります。
大学での講義、企業研修、ブランド設計、事業プロデュースは、形は異なっても、本質的にはつながっています。
それぞれの中にある価値を発見し、言葉にし、社会との接点をつくることが、当社の仕事です。
講師コメント
今回の講義について、楠野は次のようにコメントしています。
私が学生の皆さんにお伝えしたかったのは、マンガの知識ではなく、マンガから受け取ったものを、自分の言葉にすることの大切さです。
振り返ると、現在の仕事で使っている判断軸の多くが、平成マンガから来ていました。自分が何を面白いと感じるのかを知ることは、自分がどのような仕事をしたいのか、どのような価値を世の中に届けたいのかを知ることにもつながります。
「好き」や「面白い」という感覚は、個人的なものに見えます。しかし、その理由を丁寧に言葉にすると、商品、サービス、ブランド、事業、文化をつくる力になります。
一人ひとりが自分の「面白い」を信じ、その理由を誰かに語ることが、次の文化や新しい仕事を生み出す力になると考えています。
講義概要
講義名:面白いとは何か?――平成マンガは、私たちに何を育てたのか
開催日:2026年7月31日
時間:13時00分~15時00分
会場:札幌大学
講師:楠野隼人
形式:講義および参加型ワーク
講義・研修・ワークショップのご相談について
当社では、今回のような大学での講義に加え、企業、自治体、教育機関、文化施設などを対象とした講義、研修、ワークショップの企画・実施についてもご相談いただけます。
例えば、次のような課題に対応します。
自社や地域の魅力をうまく言葉にできない
理念や価値観を、社員や次の世代へ伝えたい
若い世代が自分事として参加できる研修をつくりたい
商品や事業の「面白さ」を発見したい
新規事業やブランドのコンセプトを整理したい
マンガや文化を活用した教育・地域企画を実施したい
関係者の意見を引き出し、共通の言葉をつくりたい
価値を発見するところから、社会への届け方まで相談したい
講義だけ、ワークショップだけという形に限らず、課題の整理、プログラム設計、ファシリテーション、価値の言語化、ブランド設計、事業企画まで、目的に応じて組み合わせることが可能です。
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